私の夢~カンボジア舞踊をはじめて12年~

投稿者:カンボジア舞踊教室SAKARAK 大阪教室 レッスン生 Maki(50代)

カンボジア舞踊と蛇神・ナーガ

2025年は巳年。「蛇」と聞くと苦手な人もいると思いますが、「蛇神・ナーガ」はカンボジアの人々に愛されているモチーフのひとつです。

世界遺産アンコールワットを訪れると、参道で奇数の頭をもった蛇神・ナーガが迎えてくれます。第一回廊では蛇神・ナーガの胴を阿修羅と神々が引き合う有名な「(にゅう)(かい)攪拌(かくはん)」のレリーフを見ることができます。また、蛇神・ナーガの娘と人間の王子が恋に落ちる建国神話を象徴した儀式はカンボジアの伝統的な結婚式で受け継がれています。

2003年、ユネスコ無形文化遺産に登録されたカンボジア舞踊の体の動きやきらびやかな衣装、装飾品も蛇神・ナーガを模していると言われています。

蛇神・ナーガのポーズ 右手は頭、左手は尾を表しています

〈写真:2025年 蛇神・ナーガのポーズ 右手は頭、左手は尾を表しています。〉

人生に潤いを与えてくれる
カンボジア舞踊

カンボジア舞踊に魅せられ、レッスンをはじめて12年。歌やダンスから縁遠かった私の人生を豊かに彩り、忙殺される日々に潤いを与えてくれています。

レッスンを始めるきっかけは、当時放送されていたTV番組「ほっと@アジア」で山中ひとみ先生が出演し「大阪でもカンボジア舞踊を教えている」と紹介があったからです。2012年ちょうどその頃、カンボジアカンポット州の親友マリスの結婚式で、輪になって踊った夜がとても楽しく、その余韻に浸っていたこともあり、迷わず電話をかけたのを覚えています。

レッスンをはじめてから知ったのですが、カンボジア舞踊の踊りの型には3種類あり私が結婚式で輪になって踊った踊りは“民衆舞踊”と呼ばれているものでした。

2024年上賀茂神社にて。て古典舞踊「ニアリー・チア・チュオ」右手は「褒め称える」のポーズ

〈写真:2024年上賀茂神社にて古典舞踊「ニアリー・チア・チュオ」右手は「褒め称える」のポーズ〉

レッスン開始

いざ習い始めると、手や指の動きには意味があり、その一つひとつは植物の命の循環「種を植える→芽→葉→つぼみ→花→果実が弾けて落ちる」を表すなど興味深かったものの、手足の指を反ったり、独特の姿勢や体の動きは「難しい!」と感じました。けれどレッスンを重ねるうち、手・体・足の動きが一つに繋がり、ほんの少しですがカンボジア舞踊らしい動きができるようになり、踊る喜びが増えていきました。

同時に、カンボジアタケオ州でホームステイをしたとき、クメール語が話せない私に、言葉の壁を越えて、カンボジア舞踊の楽しさを教えてくれた子どもたちとのひとときもまた踊る原動力となり、「難しいけど楽しい!」と思えるようになりました。

2018年カンボジア、タケオ州の子どもたちと一緒に撮影

〈写真:2018年 タケオ州の子どもたちと一緒に〉

闘病中を支えてくれた
カンボジア舞踊

ところが2015年、私はがんを患い、しばらく踊れない時期を過ごすことになりました。この時期も踊りから気持ちが離れることはありませんでした。カンポット州やタケオ州の親友や子どもたちと「また一緒に踊りたい!」と楽しかった思い出が募るばかりでした。その後、日常を取り戻し、無事レッスンに復帰することもできました。

しかし、いろいろ思い煩うこともありました。そんな折、SAKARAK生徒発表会の動画に癒されました。2016年の動画では、小さなレッスン生(6歳)と同じくレッスン生で彼女の母と山中先生の3人が、古典の要素を取り入れ「カモメの水兵さん」を踊っていました。健気なその姿がなんともキュートで微笑ましく、動画を見ているその時だけは術後の体のことやそれに伴う不安を忘れることができました。カンボジア舞踊に秘められた清らかな美しさとパワーを実感しました。

少女とハス タケオ州にて

〈写真:少女とハス タケオ州にて〉

カンボジア舞踊で
アンチエイジング

カンボジア舞踊の体の使い方は、普段の生活では伸ばしたり動かしたりしないようなところを使うことも多く、眠っていた体のあらゆる部分が刺激される感覚があり、繰り返し練習することで体幹が整い、亀さんペースではあるものの踊れる演目も増えてきました。2018年にはプノンペンで民俗舞踊「ココナッツダンス」と古典舞踊「ポッパー・ロケイ(幾千万の花の踊り)」を披露する機会に恵まれました。SAKARAK(JCDA)が主催するイベントや先生が招待された催しにレッスン生として出演させていただけることも日々のレッスンのモチベーションとなり、私のアンチエイジング(抗加齢・抗老化)となっています。

2024年上賀茂神社での公演。リハーサル中

〈写真:2024年JCDAとして参加した上賀茂神社での公演にて「ニアリー・チア・チュオ」のリハーサル〉

2018年プノンペン公演にて民俗舞踊「ココナッツダンス」

〈写真:2018年プノンペンにて民俗舞踊である「ココナッツダンス」〉

2018年プノンペン公演にて古典舞踊「ポッパー・ロケイ」

〈写真:同じくプノンペンにて古典舞踊である「ポッパー・ロケイ」〉

2025年、私は今、「チューン・ポー」を練習しています。日本語で「祝福の舞」と称されるこの踊りは、アンコールワットの壁画に描かれた天女のような女性が国の繁栄や家族の幸せを願い花をまき、飛び立って天に帰っていくまでの様子を表現しています。踊っている自らは、日常の雑念が浄化されていく心地よさを感じます。

レッスンでは、山中先生から踊りそのものだけではなく、そこに込められている願いや祈り、それに伴う手や体の動き、クメール語の意味などを教わることも、踊りの魅力を深堀できる楽しい時間となっています。

2025年大阪教室にて「チューン・ポー」の練習。天女が天へと飛び立つ前に行き先を見定めている様

〈写真:2025年大阪教室にて「チューン・ポー」の練習。天女が天へと飛び立つ前に行き先を見定めている様子〉

願いが叶いますように・・・

親友マリスの娘モーラコットが「チューン・ポー」を踊っている姿を、最近よくフェイスブックで見かけます。いつの日かモーラコットをはじめカンポット州・タケオ州の子どもたちと「チューン・ポー」を踊りたい。

2023年12月、タケオ州の親友ソムライが思いもよらぬ大病を患い天に召されました。苦学して看護師となった彼女は、首都プノンペンで高収入を得る仕事に就くことも可能だったとは思いますが、愛する家族とともに生まれ育ったタケオ州で、障がいをもった子たちのケアなどに尽力しました。

古典舞踊「ポッパー・ロケイ」より、「幸せ」という歌詞に合わせたポーズ

〈写真:2018年プノンペンにて 古典舞踊「ポッパー・ロケイ」 左手は「幸せ」という歌詞に合わせたポーズ〉

タケオ州は、背の高いヤシの木があり、牛が田を耕すのどかな風景が広がるところです。彼女とは縁あって2008年に出会って以来、彼女の家族とともにかけがえのない数えきれない思い出があります。彼女の実家で田植え体験をさせてもらったこと、ココナッツを削って「ラパウ・ソンクチャー(かぼちゃプリン)」の作り方を教えてもらったこと、マリスの結婚式ではともに「ネアック・コムドー」という新婦のエスコート役をしたことなど……思い出は尽きません。彼女を偲び、残された幼い2人の息子たちと家族の幸せを祈りつつ……この思いを踊りに託すことができれば・・・。日々レッスンに励みたい。